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<Web ちゃっきりむし 1973年 No.14〜16>

● 目 次
 《新著紹介》 海をわたる蝶 日浦 勇 著 (No.14)
 高橋真弓:静岡県とその周辺の未調査地域 T (No.15)
 高橋真弓:静岡県とその周辺の未調査地域 U (No.16)

 ちゃっきりむし 14(1973年3月18日)

  《新著紹介》 海をわたる蝶 日浦 勇 著

 これまでにいろいろな蝶の本が発行されているが,全般に名前をしらべるための図鑑類や趣味的な本が多く,生物の一つとして蝶をあつかった本はごくすくない.この本は,まさにそのような本であり,私自身の体験からして,24年前に"蝶の生活"(新村太朗著)をはじめて読んだときの感動をふたたびよびおこしてくれた本である.

 著者は,九州大学農学部で昆虫学を専攻され,現在大阪市立自然科学博物館(1973年4月から大阪市立自然史博物館)で主任学芸員をつとめられ,明せきな頭脳と深い理論では定評があり,ことに分布論では第一人者である.

 この本の内容は全部で八つの章からなり,わかりやすい文章で,読者をぐいぐい引きつけていく.まず,イチモンジセセリ・ウラナミシジミ・モンシロチョウなどのごくありふれた蝶の生活のもっている深いなぞにはじまり,さらに著者自身のフィリピンでの体験から,南方から飛来する迷蝶の起源におよび,農村化や都市化のおよぼす蝶相への影響に発展して,種とは何かという生物学の根本問題にせまっていく.さいごの2章では,日本の蝶相の起源と成りたちが述べられ,落葉広葉樹林とむすびついて生活する森林性蝶類が第三紀日本の蝶の主力であり,第四紀後半にいたって草原が出現するとともに草原性蝶類が日本に入りこんできたことが,いろいろな角度から考察されている.

 さいごに著者は"この素晴らしい世界−きびしいと同時にやさしい世界を,私たちは滅茶滅茶に破壊しつづけている.坂道をころがるような破壊の速度をゆるめ,多様性の復権に取りくまなくてはならない."さらに,"私たちのなかのどんな階層が問題なのか,どんな生産関係が,どんな社会体制が問題なのか,さらにどういう科学やどういう技術が問題なのか,それらは歴史的にどう変ってきたのか,というところまで立ち入って探らねばならない."と述べ,これからの自然史科学の方向を指し示している.
(蒼樹書房,1973年2月28日発行,B6,200ページ,¥980)

 ちゃっきりむし 15(1973年7月20日)

  静岡県とその周辺の未調査地域 T 高橋真弓

 静岡県は,こと蝶類に関しては,その分布がかなりよくわかっている地域ですが,まだまだいくつかの,まったくあるいはほとんど調査されていない地域が残っています.ことに若い会員の皆さんが夏期休暇を利用して調査に出かけられることを期待します.なお,コースなどは事前に登山案内書なので十分にしらべて絶対に遭難事故などおこさぬよう慎重に行動してください.

1.十枚山:静岡駅から六郎木までバス(安倍線)利用.日帰り可能.頂上付近でフタスジチョウ・ギンボシヒョウモンなどの発見が期待される.

2.笊ヶ岳:海抜2629mの高峰.まったく未調査.頂上付近にハイマツがあり,その周辺でベニヒカゲとクモマベニヒカゲ発見の可能性が大きい.大井川中ノ宿からの登山路があるが,幕営が必要.登山の経験と体力を要する.

3.蕎麦粒山:大井川鉄道下泉駅下車.日曜日には途中までバス運転.頂上は海抜1627mでブナ林におおわれる.フジミドリシジミ,ウラキンシジミなどが生息することは確実.幕営すれば黒法師岳方面への調査も可能.

4.篠井山:山梨県南巨摩郡富沢町にあり,頂上は海抜1394m.フタスジチョウの目撃記録があるので,その確認が必要.山麓に1泊するのがよく,町屋および戸栗川からのコースがあるが,土地の人に十分に確かめて登山すること.

 ちゃっきりむし 16(1973年10月20日)

  静岡県とその周辺の未調査地域 U 高橋真弓

 前回に引き続いて,蝶類の未調査地域を紹介します.

5.長九郎山: 伊豆半島天城山脈南側の猿山<1000m>から長九郎山<996m>にかけては,伊豆半島ではもっとも原生林に恵まれた地域の一つで,蝶についてはまったくの未調査地域です.もっとも期待されるのはキリシマミドリシジミなどの発見でしょう.天城スカイラインや河津町の梨本,荻ノ入などからのコースがあります.

6.愛鷹山: 愛鷹山群のもっとも南側の峰で海抜1187m.南麓からいくつかの登路がありますが,アプローチがやや長いこともあって,蝶についてはまだほとんど調査されていません.頂上付近にはブナなどを含む原生林が残されているので,フジミドリシジミやウラキンシジミなどの発見が期待されます.

7.毛無山南側尾根: 天子山脈の毛無山付近はすでに何回か調査されていますが,まだまだ不完全です.5月上〜中旬のヒメギフチョウ,7月上〜中旬のフタスジチョウなどの調査が期待されます(2種とも未発見).また地蔵峠南方では,ウラジャノメがどのあたりまで南下しているか興味があります.富士または富士宮からバスの便があり,朝霧高原で下車します.