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<Web ちゃっきりむし 1974年 No.17〜20>

● 目 次
 山根知之:またもや踏み荒らされた自然 (No.17)
 清 邦彦:"生きた材料"の交換について (No.18)
 「駿河の昆虫総目次」間もなく完成 (No.19)
 「駿河の昆虫総目次」ついに完成 (No.20)

 ちゃっきりむし 17(1974年1月31日)

  またもや踏み荒らされた自然 山根知之

 1970年静岡市梅ヶ島のウラジロガシ林がヒサマツミドリシジミの採卵のため切り倒され,世間のひんしゅくを買ったことは記憶に新しいところであるが,またまたそれ以上の不行跡が行なわれ自然保護がさけばれている折から大きな問題となっている.その詳細は1月17日付の静岡新聞夕刊に報道せられたとおりであるが,筆者も昨年12月19日,高橋・諏訪両氏と「月刊むし」で発表されたキリシマミドリシジミの生息地を尋ねたのでその状況をお知らせする.

 まず強羅駅前をすぎ急坂を登った容城野の立派な邸宅の下にちょうど道路下よリ大きなアカガシが枝を広げていた.見ると手のとどく範囲の枝はすへて切り落され,太い枝が5〜6本散らかされていた.葉はまだ青味が残っていたので1ヵ月ほど前のものと思われる.その付近で3mほどの高さの枝から破れた卵殻1個を見つけ,キリシマミドリシシミの生息を確認した.

 元箱根に帰り,小田原方面に少し下った甘酒荼屋上方をさがした.ここにはまだアカガシの大木が急坂にかなり残っていたが,ここでも沢に張りだした産卵されそうな枝は切り落され踏み荒されてひどいものであった.

 静岡県側に帰り箱根峠下原生林に入った.ここに11月3日にも見たところであるが,沢の両側より直径20p以上のアカガシが3本根もとより1mくらいの高さの箇所より切り倒され,付近の木も太い枝を落され,足の踏み場もないほど荒されていた場所である.その時は1年前の枯れた枝と1週間ほど前に切られたとみられる緑葉をつけた枝があった.諏訪さんの呼ぶ声に少し下流に行くと,今朝にも切り落されたような青々とした葉をつけた枝があちらにもこちらにも散らかっており,うす暗かった沢はすっかり変って明るくなってそのひどさにあきれるばかりである.そこには東京のあるスーパーマーケットの印のあるパンの袋などが捨てられてあった.切り落された枝の葉の状態から,11月に入ってからも2〜3回来ているようであった.

 今回は生息地の植生を見て廻るつもりであったが,収集家の荒らした跡を見て廻った結果となり,驚かされたしだいである.キリシマミドリシシミは下枝に多く産卵し,飼育に必要な10卵程度であれば手にとどく範囲で充分採卵できるので,枝を切り落すことなどしないようとくに自重してもらいたいものである.

 ちゃっきりむし 18(1974年3月11日)

  "生きた材料"の交換について 清 邦彦

 最近少々気になる記事が目につく,雑誌の巻末にある読者の交換記事中に,ヒサマツミドリシジミ,キリシマミドリシンミ(箱根産),オオムラサキなどの蝶の生きた卵,幼虫,蛹の交換がふえてきたことである.先ごろ日本鱗翅学会では蝶蛾の生きた材料の売買は好ましくないものとし,このような行為に加わらないよう要望する会長告示が出されているが,交換についても問題があるのではないだろうか.

 本人が必要とする以上にできるだけ多く採集し,余ったら誰かと交換すれば‥という考えは乱獲に結びつきかねないし,もし交換相手が見つからないときはどうするつもりなのか,個人の飼育能力を上まわり,殺してしまいかねない.野外で多数の卵・幼虫を見つけをときは,はたしてそれを飼育できるものか考え,必要以上に持ちかえるべきでないだろう.他人にゆずるにしても,あらかじめ依頼されていたときなど,はっきり飼育できる見通しがある場合にかぎられる.飼育の見通しのないまま雑誌広告で飼育を求めるのは無責任である.交換用にむやみに卵・幼虫を採集する行為をつつしむとともに,雑誌・学会誌などの編集にさいしても慎重にあつかっていただきたい.

 ちゃっきりむし 19(1974年7月10日)

  「駿河の昆虫総目次」間もなく完成

 静岡昆虫同好会創立20周年記念行事としての「駿河の昆虫総目次(bP〜80)」発行は,現在第2校まで進んでおり,近日中に印刷される見とおしとなリました.タイプオフセットB5 118ページで,80号までの各報文の要約・解説・訂正などがあり,「駿河の混虫」を利用するにはたいへん便利なものになることと思います.基金の方も皆様からのご予約・ご寄付により約22万円が集まりましたが,500部発行のためには,すくなくとも30万円かかります.引き続いてご援助のほどをお願いいたします.なお,予約あつかい(送共¥600)は7月末日までとし,以後は実費あつかいとさせていただきます.

 ちゃっきりむし 20(1974年12月10日)

  「駿河の昆虫総目次」ついに完成

 静岡昆虫同好会の創立20周年記念行事として昨年から4名の編集委員によって続けられていた「駿河の昆虫総目次(bP〜80)」発行の準備は終り,8月1日発行のはこびとなりました.会員の皆様とともに心から喜びたいと思います.

 冒頭に高橋真弓幹事(総務)が書かれているように,この総目次は「駿河の混虫」,80号まで(1953〜1973年)の貴重な報告の要約であり,単なる総目次ではなく,それ自体独立したものとして,静岡県およびその周辺の昆虫を研究される方々に非常に参考になるように心がけて作られています.したがって,これからの調査・研究はこの総目次によっていっそうやりやすくなるものと思われます.ただこの総目次が単に珍種の採集手引として使われることのないよう切に願うしだいであります.とくに蝶類の研究においては,その対象は華やかな脚光を浴びる種に限定されるきらいがあります.そうしたなかで,モンシロチョウやイチモンジセセリにはじまるいわゆる普通種の分布や生態の再検討や資料の集積が必要であります.今回の総目次の完成を契機に,将来本会の記念行事には是非,蝶・蛾,甲虫,あるいはその他の昆虫に関する分野別の「地方誌」を発行していきたいものです.そのために,日常生活のなかでいかなる普通種についても行動(生態)などをメモし,会誌「駿河の混虫」に積極的に投稿しましょう.
                                       (北条篤史)